好感度の稼ぎ方が分からない帝統

 さていただきます、というところでインターホンが鳴った。来客の予定は無い。思わず少しムッとしてしまったけれど、モニターに映ったのが帝統だったのでコロッと手のひらを返して応対する。

「悪い、ちょっと入れてくれ」

 特に拒否をする理由は無いので鍵を開け、彼を部屋に招き入れる。食卓にすっかり用意された夕飯を見て、帝統は「悪い」とバツの悪い顔で一言謝った。あまりにドンピシャだったから、こういうタイミングを見計らって来たのかと思ったのだけど。

「いいけど、今自分で食べる分しか作ってないからマトモに出せる分はないよ。ご飯あとちょっとと、なんか冷食あったかな……」
「いや、気にすんな。タカリに来たわけじゃねーから」
「え、そう? んー、お客用の布団も干してないんだよね……」
「人のことなんだと思ってんだよっ! 用事済ませたらすぐ帰るっつーの」

 うーん、用事とは。食事でもない、宿でもないとなると、やっぱり金銭だろうか。私だってそんなに現金を持ち歩くタイプじゃあない。こういう時間から帝統が行くような賭場の資金にするとなると、多分手持ちじゃ足りないと思う。
 思っていたことが全部顔に出ていたらしい。それでも帝統は今までの所業があるから、そう思われても仕方無いという自覚はあるようだった。気まずそうに口を尖らせて言う。

「タカリに来たんじゃねえって言ってるだろ。今日は勝ったんだよ」
「あ、勝ったんだ。おめでとー」
「おう。だからこれ、お前に」

 そう言って帝統が懐から取り出したのは、よくある書類サイズの茶封筒を半分に折ったものだった。少し厚みがある。文庫なんかを入れるとこんな感じになるだろう。

「なにこれ?」
「まあ、俺の気持ちっつうか、お前に渡したくてよ。……そんだけ! じゃ、メシ時に邪魔して悪かったな。帰るわ、オヤスミ」
「えっ、あ、あ、うん、オヤスミ……」

 引き留める間もなくサッと帝統は帰ってしまった。玄関の鍵をかちゃんと掛けて、手元に残された封筒を見つめる。うーん、なんだろう。来週発売予定の夢野先生の新刊とかかな。そうだったら嬉しい。いや、でもそれなら帝統の勝ち負けはあんまり関係無いか。ぼんやり考えながら封筒を開けてみて「えっ」思わず一度閉じた。もう一回開けてみる。見間違いではない。中には、帯封で束ねられた紙幣が二束入っていた。

「ちょ、っと、帝統!」

 慌てて玄関を飛び出したけれど、もちろんすでに帝統の姿は無かった。逃げ足の速い男なのである。どうしたものかと頭を抱えてしまう。いま確かなのは、このお金には絶対に手を付けられないことくらいだった。


2023/11/06 初公開
好きな子相手にどうしたらいいか分からなくなる帝統には夢がある