もうすぐ誕生日の話

 もう寝るだけの状態になって自分の部屋でスマホを眺めてたら、なんとなくカレンダーの日付が目に入った。初めての彼女ができて二ヵ月くらい。もうすぐ俺の誕生日がやってくる。
 彼女が兄貴と三郎にこっそりと俺の欲しいものを聞いていたのを実は知っている。プレゼントって結局気持ちが一番大事じゃん。今回聞かれたのは俺じゃなくって近くから見てるだけだったからよく分かったけど、ウチの兄弟はプレゼントについて基本的にそう思ってる。だから聞いてはみたもののさんの目当ての情報はあんまり聞けなかったっぽい。先週くらいついに、もう降参とばかりに「二郎くん、なにか欲しいものってある? もうすぐ誕生日でしょ、考えてはみたんだけど最近の男の子が欲しいものってよく分かんなくて……」と直接聞かれた。そんときはめちゃくちゃ嬉しいのを隠しながら「別にいーよ。〇〇さんが祝ってくれるって気持ちが一番嬉しいからさ」って答えた。けど〇〇さんは律儀な人だし、付き合って初めての誕生日だからって多分ちょっと気合を入れたなにかがある気がする。俺だったらそうするし、〇〇さんも多分そう。俺と考えることが同じだったらいいなっつう期待でそう思ってるところは、まあちょっとある。
 〇〇さんの律儀なところはめちゃくちゃいいところだし、すげえ好きなところでもある。期待をちょっとしてる自分もいる。だけど冗談抜きにマジのマジで、今回に限っては本当になんのプレゼントも用意してないでほしいというのが正直な気持ち。〇〇さんが祝ってくれる気持ちが一番嬉しいってのは嘘じゃない。嘘じゃないけど、それだけでもないのが健全で健康な不良少年っていうもんだ。〇〇さんにはまだなにも言ってない、俺が勝手に一人で考えてるだけの誕生日の計画。計画っつうかもう単に俺の希望ってか欲望。それは、誕生日をダシにして、キスしたい、って〇〇さんにお願いすることだった。
 キスしたいとかそういうの、雰囲気? ムード? でスマートにするのがカッコイイ男ってもんだろうか。直接言ったらガッついてるとか思われる? でもこの二ヵ月くらいの俺は、外で歩くときも手を繋ぐくらいだし、家でデートするときも隣には座ったりするけどあんまりべったりくっついたりしねえし、ぎゅってすんのもたまにくらい。自分で言うのもなんだけど結構がんばってたと思うから、そろそろキスくらいいいんじゃねえかなって思う。キスくらいっつっても、まあ俺は初めてなんだけど。〇〇さんはどうだろう。年上のひとだし、俺と会う前に彼氏とかいたことあっても全然おかしくない。〇〇さんも初めてだったらそりゃ嬉しいけど、俺と出会う前のことまで口出しできる権利なんてねえから、それはいい。これから〇〇さんとキスできるオトコは俺一人なわけだし。それはいいけど、今までのやつらと比べて俺がめちゃめちゃ下手だったらヤダなってのはある。〇〇さんはそんな風に誰かを他と比べたりする人じゃないので、これは完全に俺の対抗心だ。
 セックスだったら……なんか、上手い下手ってのがあんだろなってイメージは分かる。童貞だけど。童貞の知識でも、まあなんか……分かる。でもキスの上手い下手っていうのは、どんなんだ? あるのか? 分かんねえ。童貞だから。……練習とか、しといた方がいいのか? 人差し指を横にして、自分の唇をそっとくっつけてみた。切れて血が出るほどじゃないけどカサついている。教室が乾燥してるって女子がよく言ってるけどこういうことなのか? そのまま目を閉じて〇〇さんのことを考える。キスしたいなってずっと考えてっから、最近は隣にいても〇〇さんの唇ばっかり見てしまう。俺のとは違ってぷるぷるでやわらかそうで、ほんのり色づいてて女の子らしい、〇〇さんのかわいい唇。あの唇にキスしたらどんだけ幸せな気持ちになれるだろう。想像するだけでドキドキして顔が少し熱くなる。早くしてえな、って唇を食べるみたいに動かす。〇〇さんはどんな反応してくれっかな。舌入れんのはまだ早いだろうな。ちゅ、と軽く吸い付いたら、……いやこれ俺の指だっての!! 一気に正気に戻って勢いよく手を離す。
 なに? 今の俺……。完全にバカんなってた。ラブコメアニメじゃねーんだぞ。ラノベのヒロインがやってたらかわいかったかもしんねえけど、俺がやってたらかわいくない通り越してキモすぎて割と引く。なんか死ぬほど恥ずかしくなってきた。くそ、アホすぎ。でもそれもこれも全部、〇〇さんがかわいすぎるのがいけないんだと思う。あんなにかわいい子にキスしたくなんなきゃ嘘じゃん。勝手に〇〇さんのせいにして恥ずかしさをごまかした。ごめん、〇〇さん。
 いやでもやっぱ……キス……したいな。キスしよって言ったらいいよって言ってくんないかな。そんで目ェつむってキス待ち顔とかしてくんないかな。〇〇さんのキス待ち顔、めちゃくちゃ見たい。スマホで撮って別フォルダに入れてロックかけて残したい。つーかまずキスしたいって言えるかが問題。タイミングあるかな。あってくれ。〇〇さんとキスしたいっていう最上級にいいものをオネダリしようとしてるわけだから、やっぱ〇〇さんプレゼントなんも用意してないでほしい。プレゼントがある上にキスしたいまで言っちまったら、なんか俺が貰いすぎみたいになりそう。でもあんま強く「プレゼントいらねーから!」って言っといても「なんで?」ってなるだろうし、あ~、ってか買うんだったらもう用意済みでも全然おかしくねえし……。でもキスはしたいんだよな~……。

「もうなんも分っかんねえ~……」

 全部放り出す気分でベッドにぼすっと横になる。誕生日まではまだあと何日か。とりあえず明日は、ドラストでリップクリーム買っとくか。


2022/02/06 初公開
webオンリーの無配だったもの。当日がちょうど二郎くんの誕生日でした。おめでとー!