色々と振り回される銃兎

 二人で銃兎さんの家のドアをくぐるなり、しなやかな長身が私を抱きすくめてもつれ込むようにソファに倒れ込んだ。身をよじらせて銃兎さんの背中をよしよしと撫でる。眼鏡大丈夫かな。

「……怪我は、ありませんか」
「おかげさまでピンピンしてます。銃兎さんこそ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃありません。あなたが倒れているのを見たときは心臓が止まるかと思いました」

 ぎゅっと腕の拘束が強くなる。心配をかけているなあ。私のせいでも銃兎さんのせいでもないけど、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
 銃兎さんと付き合い始めてから、ときどきこういうことがある。チンピラというか半グレというか、そういう感じのガラの悪い人たちに車に押し込まれて連れさらわれたりだとか。初めの数回こそ死の覚悟を決めなくては……とすくみ上がっていたけれど、さすがにそろそろ慣れてしまった。
 今回は違法ヒプノシスマイクによるリリックで昏倒しているうちに拐われて、そうして寝ている間にすべて解決したらしい。次に気付いたのは病院のベッドの上だった。起きてすぐに見えた銃兎さんの顔があんまり真っ青だから、彼の方を寝かせるべきでないかと思ってしまったくらいだ。いつもの通り丁寧な銃兎さんの運転でここまで帰ってきたけれど、まだ顔色は悪い気がする。お仕事明けだし早く寝かせてあげたい。でも、体は強張ってるし心臓の音がいつもより忙しないから、多分もう少し駄目だろうな。

「寝てただけですよ。皆さんのおかげで傷一つなく無事帰ってこれました。ありがとうございます。病院でも異常ナシでしたから平気です。なんにも問題ありません。大丈夫ですよ~」
「……死にかけたかもしれないんですよ。あなたのその能天気な『大丈夫』はどこから来るんです」

 銃兎さんの眉間にシワが寄っている。怒ってるんだろうな。私にじゃなくて、犯人や、後を絶たず犯罪が起きることや、それを止められない自分に。人一人の力じゃどうしようもないことにも憤ってしまう。優しい人だから。

「ここからですかねえ」

 私の『大丈夫』の根拠。軽く握った拳を銃兎さんの胸に押し当てる。数瞬の沈黙のあと、銃兎さんは肺の中の空気を全部出すかのような長いため息をついた。「お前…………」呻くように呟いた彼の頭が私の肩口に埋まる。私は背中を撫でながら、「寝るんならベッドに行きましょう」というタイミングをずっと考えていた。


2023/01/31 初公開
彼女に敵わない銃兎がイイなという話。媚薬を飲ませられた彼女と共通かもしれないし違うかもしれない