ミスアンダースタンディング・ダンシング 04

 放課後山田二郎くんに呼び出されたあの日から、一週間が経った。今のところ、学校では不思議なくらいにそれ以前と同じように生活している。彼の『彼女』が私ということになっているらしいというのは、校内ではまだ他に知る人がいないようだ。何故だか分からないけれど、山田二郎くんは私の希望の通りにしてくれているんだろう。なるべく早めに帰宅するようにしているから、誰かに知られる余地が少ないのもあるかもしれない。
 校外ではというと、山田二郎くんが少しだけ私の日常に入り込んできた。夜になって夕食を終えたころ、スマホにメッセージが届くことがある。相変わらず文面はそっけなくてときどきスタンプがあったりなかったり。内容はいつも一緒だ。『明日の放課後なんか用事ある?』今のところ優先すべき用事があったことはないので、大人しく空いていることを返信する。いくらも経たないうちに『外のとこで待ってる』と返ってきて、それでやり取りはおよそ終わりだ。つまりこれは、明日は一緒に帰るぞという連絡なのだった。
 初めて一緒に帰った日のあと二回ほど、そうして山田二郎くんと駅までの帰り道を歩いた。昨日もメッセージがあったので、今日もそうなるだろう。もうじきに片手じゃ足りなくなる回数になる。

「よぉ、お疲れ」

 予想通り並んで下校をしながら、どうしてこんなことになっているのかやっぱり不思議だった。最初恐れていたようなパシリや財布にされることはまだない。もしかしたら私の考えすぎだったのかと思ったりもする。しかしそうだとするとあのときの「付き合えよ」は本当に告白だったということになるが、それにしては山田二郎くんの行動はヘンだ。メッセージもほとんど用件だけだし、こうして隣を歩いていても基本的に会話がない。

「昨日あの後なんもなかったか?」
「なにも……とは」
「なんかは……なんかだよ。変なヤツに絡まれたりとか」
「そういうのは、全然……。大丈夫です」
「ン」

 まったくの無、というほどではないけれど、このようにすぐ途切れてしまう。他には今日あったことなんかをぽつぽつ話すくらいだ。家でご飯時に報告する話をもうちょっと堅苦しくしたような感じ。告白をするような相手であれば、カップルであれば、こう……、相手のことをもっと知りたいとか、色々話したいことがあるものなんじゃないだろうか。山田二郎くんからはそういう気配がちっとも感じられない。そういえば視線も全然合わないような。直接会うのが下校時だけで並んで歩いているからなのもある。だけど様子をうかがいたくて山田二郎くんの方をそっと見ても、彼は前を見て黙々と歩くばかりでちっとも私を気にする気配がなかった。
 うーん、下っ端として使うほどではないけど、彼女がいるアリバイが欲しい事情がなにかあって、それでいつでも関係を切れるし逆らわなさそうな私に声をかけたとか……? それならこの態度にも納得がいく。うん、我ながらなんだか妥当そうな推理の気がするぞ。

「……ヒェッ!?」
「…………」

 そんなことを考えて一人納得していた私だったが、不意に山田二郎くんの手が私の手を掴んだので、周りも気にせず素っ頓狂な声を上げてしまった。その声が聞こえていないはずはないのに、彼は何も言わずにそのまま前だけを見て歩き続ける。そんな態度をとられてしまえば、もう私に振り払う度胸はなかった。
 これは、手を、繋がれている?……そう判断するにはなんだか握られている部位が不自然ではあった。ほとんど手首である。友達とラフに繋ぐときとも、ドラマで見た恋人たちとのそれとも違う。これは、なんというか、確保という単語の方が合っているんじゃないか? 連行されているような気分だ。
 ちらりと隣をうかがってみるけれど、山田二郎くんの口元は不機嫌そうにぎゅっと結ばれていて、相変わらず何を考えているのかさっぱり分からない。手首を握る手のひらがひどく熱いことだけが、多分確かなことだった。


2023/02/10 初公開